奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 器官発生工学 磯谷研究室

研究テーマ

異種間キメラ動物

▲図1.マウスとラットの異種間キメラ動物作り方

異種の細胞同士が混ざりあって1つの個体となる異種間キメラ動物の作出は、1970年代には試みられていましたが、マウスとラットの組み合わせでは成功していませんでした。この頃のキメラ動物は、集合法によるもので、この方法では体になる部分だけでなく、胎盤もキメラになります。おそらく、異種間キメラとなった胎盤中の異種の細胞が異物として代理母の免疫系に認識されて排除されるために、異種間キメラ動物は、誕生できなかったのではないかと考えられます。このことは、体のどんな細胞にでも分化できるが胎盤にだけは、なれない細胞として知られているES細胞を用いると、異種間キメラ動物が誕生したことからも強く示唆されました(図1、ref. 1)。

臓器形成モデル

胸腺のないヌードマウスの胚盤胞とラットのES細胞を用いて異種キメラを作ると、胸腺がラットの細胞で構築されることが分かりました。つまり、異種キメラの系を用いれば、ES細胞やiPS細胞から、複雑な3次元構造を持つ臓器を作ることができます(ref. 1)。異種キメラ内に作られたラットの胸腺は、T細胞を成熟させることが分かりました(図3)。しかし、このようにして作った胸腺は、マウスよりも小さく、この胸腺によって教育されたT細胞は、正しく非自己を排除できるかどうかはまだ明らかになっていません。

このように、異種キメラの体内で作られた臓器・組 織、細胞が正しく働いているかを明らかにすることは、再生医療に結びつけるためにも、今後の重要な課題の 一つです。異種キメラの系を用いて、様々な臓器形成 モデルの確立を試み、臓器・組織、細胞が正常に機能 するために必要な要因を明らかにしていきます。

▲図2.異種間キメラ動物の技術で作ったット胸腺働き

新規動物モデル

近年、次世代遺伝子改変技術として注目されているゲノム編集技術(CRISPR/Casシステムなど)を用いれば、簡単に遺伝子破壊動物を作製できるようになりました(ref. 2, ref. 3)。この技術をES細胞(または、iPS細胞)と組み合わせば、より複雑な遺伝子改変を行えるようになります(ref. 4)。

また、マウスの胚にラットのES細胞を注入した異種キメラの精巣内には、マウスだけでなく、ラットの精子もできます。このラット精子はラットの卵子と受精させると、次世代が誕生することが分かっており、この系を介して遺伝子組換えラットの作出にも成功しています(ref. 5) 。

このような、ゲノム編集技術と異種間キメラ動物の 技術を組み合わせ、ヒトの疾患モデル動物だけでなく、遺伝子工学・細胞工学・生殖工学を駆使して生命科学 研究のブレイク・スルーに繋がるような新たな動物モ デルの開発を目指します。

▲図3.ゲノム編集技術と異種間キメラ動物を用いた融合研究